季刊誌 駒木野 No.193
これからの児童精神科医療について
副院長 笠原麻里
児童精神医学の歴史は、精神医学の中でもずいぶん新しい、というより、遅れて発展してきた。一般精神医学においては、19世紀後半には統合失調症などの疾病単位が確立されたが、児童精神科の研究発表が重ねられるのは20世紀半ば以降である。20世紀初頭に発表された攻撃的で反抗的な子ども達の症例は、その後微細脳機能不全(minimal brain dysfunction)概念へ進み、1980 年代に今日のADHDの診断に至る。児童精神医学の流れは、1943年にカナーが自閉症を発表したことで大きく広がるが、1960年代には、いわゆる母原説によって子どもの精神病理に関する議論は拡散した。それでも、系統的視点で臨床研究を積み重ねたラターらによって児童精神医学の骨格が作られ、1980年代に入りウイングが自閉症スペクトラム概念を提唱し、DSM-5(2013年)に掲載された「自閉スペクトラム症」の診断がまとめられた。
また、わが国では、2002年に国がようやく児童虐待件数を集計し始め、当時年間1,101件しか把握されなかった虐待が、2020年には全国で20万件を超えたが、これは、ここまで認知されるようになったと読み取るべき数である。このように、今世紀初頭までに確立された基準のもとに診断され、あるいは一定の調査のもとに把握された子ども達が、今日、成人になっている。つまり、“発達障害”や“愛着障害”と診断された子どもが、虐待やトラウマを受けた子どもが、その後どのような大人になっているのかがわかるのである。また、海外では大規模なコホート研究によって、うつや不安を抱えた子どもや、いじめられた子どもが、若年成人期までにどのような精神病理を持つのか、あるいは成人期の病理とは無関係なのか、などのデータが発表され始めている。
駒木野病院の児童精神科で治療を受けた子ども達の中で、その後も長い間当院で支えられているケースは少なくない。これからは、外来や病棟のみならず、応援部で、訪問看護ステーションで、訪問診療やグループホームでも、彼らが、大人になることを、社会に出ることを支えられていくはずである。そして、彼らに真に必要なものは何か、どのような資源が役に立つのか、大人になった彼らから教えてもらいながら、大切な要因を抽出することができる。それを支援の形にして社会へ投げかければ、成人の患者さんが、病院に入院していなくてもよい日がくるのではないかと、少し壮大な夢を抱いている。
特集!コロナ禍における世界(日本)の出来事と院内の出来事
世界・日本における出来事 | 年月 | 病院内の動き |
中国(武漢市)原因不明の肺炎報告報道有り | 2019年12月 | 感染対策委員会で世情等の情報収集開始 |
新型コロナウイルス検出で中国の感染者SARS越え世界中で拡大する | 2020年1月 | 新型コロナウイルス感染対策として、基本インフルエンザ対策対応で実施 |
横浜港にクルーズ船「ダイヤモンドプリンセス号」入港 国内で初めて感染者死亡 日本環境感染学会 |
2020年2月 | 職員に体調チェックを開始する 面会者に対して体調チェック及び症状がある場合は面会を控えるようインフォメーションを強化する 新型コロナウイルスのマニュアルを作成開始と同時に学会等参加で情報収集 |
東京オリパラ1年程度延期へ | 2020年3月 | 外来トリアージ開始にて外来ホールや出入口を交差感染しないように一方通行となるようレイアウトを変更 院内研修及び会議等の開催中止。WEB研修等で開催および院内において濃厚接触がある行事等の制限を開始 |
7都府県に第1回緊急事態宣言、のちに全国へ拡大 全国の小中学校休校へ アベのマスク国民に配布し3密を避ける新しい生活様式発令 |
2020年4月 | 外来・受付・看護センター等の各部署にビニールシート設置。環境整備の徹底 E棟4Fをコロナ受け入れ病棟とし、ベッド2床確保する 外来トリアージを行う場所を本館入口だけに変更とする |
夏の全国高校野球中止へ 緊急事態宣言解除 |
2020年5月 | 個人防護具の使用レベル表作成・面会申込制・入院時の検査胸部CT撮影施行 |
濃厚接触を通知するアプリ利用始まる WHO新たな危険な局面に入っていると発表死者50万人超え |
2020年6月 | 近郊の精神科病院にてクラスター発生、当院にへ応援要請があり、出向 E3病棟患者1名コロナ疑いにてコロナ感染対応開始・保健所と検討する |
「Go To トラベル」キャンペーン始まる | 2020年7月 | 職員が遠方に出かける際は、届出制とする |
トランプ大統領が新型コロナに感染 押さえこみの欧州で再び感染者増加で欧州ロックダウン |
2020年10月 | 当院利用者でコロナ発症。八王子市内でも拡大にて感染対応強化 入院時検査で全員抗原検査実施へ。擬陽性者にはPCRも行う方針とする |
国内でクラスターでの感染が拡大 政府「Go To トラベル」一部見直しへ「GoToイート」4人以下に制限 米ファイザーがワクチン95%有効と発表FDAへ緊急使用許可承認へ |
2020年11月 | サーモデジタル体温測定機導入により外来トリアージ変更 簡易陰圧テント2基導入 八王子市内基本型病院のコロナ感染者受け入れ逼迫状態。受け入れ要請あり |
アメリカファイザーの新型コロナワクチン接種始まる | 2020年12月 | 入院患者で発熱者、肺炎像有の増加。PCR検査実施し陰性を確認する 12月末にフェーズ3へ変更。年末年始厳重に感染対応強化するよう啓発 |
1都3県へ緊急事態宣言(2回目) | 2021年1月 | COVID-19のデータ共有システム・入力システム導入(G-MIS:医事課、HER-SYS:看護) |
外国人の入国(トラベル事業)を全面停止 国内で変異ウイルスの感染確認 新型コロナワクチン医療従事者へ先行接種始まる |
2021年2月 | 行政からの受け入れ要請あり、基本精神疾患がありコロナ治癒(アフターコロナ2床まで)を受け入れることとする E棟4Fを受け入れ病棟として準備開始。配置スタッフ向けにPPE着脱訓練実施 |
1都3県の緊急事態宣言解除へ | 2021年3月 | コロナ陽性者患者4名発症あり。うち3名転院の運びとなる。職員1名発症自宅待機でフェーズ5発令 抗原検査193名実施3月半ばでフェーズ5→フェーズ4に変更。感染者拡大なし |
大阪、兵庫、宮城、東京、京都、沖縄など各地へ「まん延防止等重点措置」適用へ | 2021年4月 | 職員のコロナワクチン接種第1回目実施402名実施84.1% |
ワクチンの大規模接種の予約東京と大阪で始まる インドの新たな変異ウイルス国内で確認 |
2021年5月 | 第2回職員ワクチン接種実施398名83.3% E2入院患者コロナ疑い1名:抗原検査陽性にて感染対応実施PCR陰性確認 |
東京都まん延防止等重点措置へ 学校利用で高齢者へのワクチン接種進め接種率が全国の3倍東京都八王子市 |
2021年6月 | 65歳以上の入院患者コロナワクチン接種第1回実施110名 |
緊急事態宣言(第4回目) | 2021年7月 | 65歳上の入院患者コロナワクチン接種第2回目実施120名 |
駒木野病院活動報告
DPAT講習会
法人事務局井出光吉
7月2日~4日にかけて、東京DPAT隊員の資格更新のための講習会が東京都立中部総合精神保健福祉センターで行われ、当院からは、13名の隊員が全員受講しました。コロナ禍ということもあり、座学の講習は、事前に各自がネット配信の映像を視聴し、当日の実演講習に臨む形の講習会でした。7~8人が1グループとなり、インストラクター、ファシリテーターの指示のもと、実際に災害が発生したことを想定した内容でした。同じような講習を資格の取得時にも行いましたが、これで本当に災害現場で活動できるか、不安も感じました。災害がないことに越したことはありませんが、準備の大切さも痛感しました。
駒木野病院レクレーション実行委員会「うかふわプロジェクト」
駒木野病院では毎年「駒木野フェスティバル」を開催してきましたが、昨年度コロナ禍の影響から、初めて分散型のイベント「うかふわ」を実施しました。今年度も経営側の意向をうけ、2021「うかふわプロジェクト」は、患者様と職員が楽しく交流することができるイベントを実行委員会で企画しました。第一弾は病棟ごとのバーチャルツアー&夏祭りを実施。アイスクリーム屋台と楽しい&綺麗な映像も登場し、夏のイベントを楽しんでもらいました。秋から冬にかけてもバーチャル旅行・アート展・コンサートなどを予定しております。感染対応で密を避けるために、映像機器やインターネットを活用し患者様に安全に楽しんで頂けるよう進めてまいります。
レク委員会実行委員長リカバリー総合応援部萩原道子
編集後記
私的にはある意味1年のうちで最も厳しいスギ花粉の時期がようやく過ぎたものの、マスクを外して大手を振って外出はできない昨今。身の回りの人や友人知人もいつもマスク姿で、そういえばしばらく素顔を見ていないという人も多いのでは。仕事でのリモート活用の取り組みは始まっていますが、プライベートでの利用にも挑戦してはいかがでしょう。お互い素顔で会話しても大丈夫な完全な感染対策です。『緊急』『まん防』と自粛ムードが続きますが、その中でも出来る新しい楽しみを探して、日々の活力に変えていきましょう。
IT管理室山内 淳
青溪会理念
[こころに寄り添い、生きる力を支援]
【皆様への五つの約束】
- 私たちは、地域社会の一員として、一人一人の心の健康を全力で支援します。
- 私たちは、専門医療・福祉機関として医療サービス内容のたゆみない向上に努めます。
- 私たちは、安全、快適、さわやかな接遇を心がけ、安らぎと回復の場を提供します。
- 私たちは、「その人らしい生活」を目指し、本来の力を引き出し、育むことに尽力します。
- 私たちは、全てのご利用者が満足し納得できるよう歩み続けます。