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季刊誌 駒木野 No.195

季刊誌 2023.01.06

業務継続のために

法人事務局長 大野 哲宏


ここ数年の気象で「これまでに経験したことのない」という言葉がよく付くようになりました。突然の集中豪雨が発生するかと思うと、40度を超える気温となったり、大雪で交通網が遮断されたりと十数年前まではあまり見聞きすることのなかった災害が、毎年のように起こっています。また、「これまでに経験したことのない」ものとして、新型コロナウイルス感染症も中国で流行し始めて2年半以上のときが経ちましたが、当初は対岸の火事程度の感覚しかなく、ここまで世界中に蔓延するとは想像もしていませんでした。
これらの注意喚起の報道の際には、必ずと言っていいほど「事前に十分な対策をとってください」と締めくくられます。このような災害や病気はこれまで皆無かというと、けしてそうではありません。数十年の単位では豪雨災害や熱波、新型インフルエンザなど、様々な『危機』が訪れています。
『危機』対策のため、業務継続計画いわゆるBCPの策定が従前から求められています。現在法人内でも検討が進められていますが、BCPとは、『危機』に対し優先業務の特定、優先業務の復旧時間の設定、代替手段の業務継続方法を定め、それが訪れた時に対処しようというものです。危機管理上想定外はありえないといわれており、「これまでに経験したことのない」と言われるこれらの『危機』を想定して計画を作りそれを実践できるようにするのは簡単ではありませんが、必要不可欠な業務を中断することは許されません。そのため、ウィズコロナも契機となって多くの機関で策定が進められています。

いざ『危機』が訪れたときに、BCPを含め、準備をすることは大切です。そのためには、多くの方が危機意識を持って、業務を継続していくために協力し合うことが求められます。コロナも終息が見えません。また台風シーズンもこれからです。
私たちも、いざというときのために「事前に十分な対策」がとれるよう心がけましょう。

『法人事務局』とは


直接業務上の関わりがないと詳しくは知らない人が多いであろう、「法人事務局」とはどんなところなのでしょうか。
広く展開する地域事業所である、こころの訪問診療所いこま、こまぎの訪問看護ステーション天馬、こまぎの訪問看護ステーション天馬北野事業所、ショートステイ駒里、グループホーム駒里、こまぎの相談支援センターを陰になり日向になり支え、また近年はリカバリー地域連携室としての機能も持ち、先ごろ徐々に再開した連携訪問の調整をはじめ、中心となる駒木野病院を含めた青溪会と地域を繋ぐ重要なミッションを日々こなしています。
2022年度には新メンバーを迎え、より一層の活躍が期待されます。

駒木野病院新しい治療の取り組み

クロザピンによる新しい統合失調症治療の取り組み

治療抵抗性統合失調症治療薬であるクロザリル®は、2009年に本邦で上市され、当院では2020年からCPMS登録医療機関として投薬を開始し、現在まで20名に投与を行ってきています。

当初は「クロザピン導入プロジェクト」を立ち上げ、導入のための施設基準等の整備、運用マニュアルの作成などを中心に行い、マニュアルが完成後は「クロザピン運用委員会」に移行し、勉強会を開催したり、現場での課題を検討しマニュアルの改訂に反映させたりといった活動を行ってきました。各部署の協力を得て、現在のところ、CPMS登録医16名(非常勤を含む)、クロザリル管理薬剤師7名、CPMSコーディネート業務担当者34名の体制で運用しています。

徐々にではありますが、外来・病棟スタッフも対応に慣れてきた一方で、当院でも発熱や白血球数減少を認めたケース、効果がなく中止にいたったケース、白血球数減少に加え新型コロナ陽性であったケースなどたくさんの難しいケースを経験してきました。その都度、持ち前の「チーム医療」で難関を乗り越えてきましたが、本邦からも臨床研究や実地報告など新たな知見が発表されてきており、今後も情報収集を怠らず、それらを臨床現場にフィードバックしていくことが必要あると考えています。

本邦におけるクロザピンの処方率は諸外国と比較して極端に低い数字となっていますが、国は地域移行・地域定着支援の切り札としてLAI(持効性抗精神病注射薬剤)の使用推進とクロザピンの普及促進を挙げています。

このことを後押しすべく、ここ数回の診療報酬改定のなかで、包括病棟でも薬剤料が出来高算定できるようになったり、クロザピン導入目的で包括病棟に転棟となった際に包括病棟の入院料が算定できるようになったりとクロザピン関連の診療報酬が変化してきています。

今後はクロザピン導入目的の転入院が活発化していくことが予想されるため、当院としても引き続き安全で適切な選択・運用をこころがけ、地域のニーズに応えていく所存です。

副院長 田 亮介

クロザピン

一般的名称 クロザピン
一般的名称(欧名)Clozapine
化学名
8-Chloro-11-(4-methylpiperazin-1-yl)-5H-dibenzo[b,e][1,4]
diazepine
分子式 C18H19ClN4
分子量 326.82
融点 182.0〜186.0℃
物理化学的性状
黄色の結晶性の粉末である。
酢酸(100)及び希酢酸に溶けやすく、メタノール及びエタノール
(95)にやや溶けやすく、水にほとんど溶けない。
分配係数 log P=0.86(1-オクタノール/pH7.0緩衝液)

医薬品添付文書 より

ゲーム障害という新しい病に対する治療の取り組み

2019年5月にWHOによりゲーム障害が行動嗜癖のカテゴリーの一つの病名として正式決定されました。

2020年からの新型コロナウイルスの感染拡大に伴い、多くの学校が臨時休校となったり、緊急事態宣言下で外出自粛になったりしたことで、オンラインゲームやネットの利用時間が増加し、ゲームやネットの“依存状態”になっている方々が増えてきているとの報告があります。各地に専門治療部門が開設され始めニーズは増える一方ですが、東京都多摩地区には現存しませんでした。またゲーム障害は依存症という側面だけではなく、児童・青年期における発達課題などの側面とも関連してくることが知られています。

駒木野病院はアルコール依存症、児童精神科、青年期外来・デイケアの治療経験が豊富であり、且つこれら既存の仕組みを活用できることから、ゲーム障害の診断・治療の素地を有していると考え、2020年度よりゲーム障害の診療および治療プログラムRPG(Rehabilitation Program for Gaming disorder )を開始しました。

本治療プログラムを立ち上げたのと同時期、院内の部門の再編により「リカバリー総合応援部」が立ち上がりました。萩原部長を中心とした応援部スタッフと田副院長を始めとする医局の先生方、生活医療部とも協働しながらゲーム依存チームが編成されました。相談会や運動療法・集団認知行動療法・心理教育などを中心としたRPG(外来・入院)、教育現場や関係機関への講演・啓蒙活動、学会への発表、研究により標準治療への取り組みなどを企画・運営しています。

RPGでは、「また来ても良いかな」と思ってもらえる事を前提にグループワークをしています。楽しみを得るだけでなく、ゲーム障害の治療に取り組み今後のことを一緒に考えるよう多種多様なプログラムを実施しています。現実世界の活動を豊かにすること、オンライン以外での仲間と繋がりを持つことを通じて新しいツールやスキルを身につけてもらい、最終的には社会復帰(学校や職場)できるようサポートしています。

ソーシャルワーカー西山竜司

ゲーム障害(Gaming disorder)

(ICD11コード:6C51)

ゲーム障害は、持続的または反復的なゲームプレイのパターン(デジタルゲーム、ビデオゲーム)を特徴とし、これはオンライン(インターネット上)またはオフラインでの可能性がある。
1、ゲームに対するコントロール障害(ゲームの開始、頻度、集中度、期間、終了、環境)
2、ゲームの優先順位を、他の生活上の利益や日常の活動よりも優先される範囲で上げる。
3、ゲームプレイにおいて否定的な結果が生じても、ゲームの継続またはエスカレートする。これらの行動パターンは、個人的、家族的、社会的、教育的、職業的、またはその他の重要な機能分野において重大な障害をもたらすのに十分な程度の重症度のものである。

国際疾病分類第11版 より

編集後記

この後記を書いているのはマスクをしながら過ごす3度目の夏を迎えた最中になります。先日自宅ベランダから近くの公園で行われたイベントの打ち上げ花火を眺める機会がありました。少しずつですがコロナ前に近い催し物を目にするようになってきたのだなあと、打ち上げ花火を通じて実感しました。以前に比べればささやかかでも、今の自分にとって大きな変化を迎えられたことの喜びをこの場を借りてお伝えさせていただきます。

生活医療部副部長 新井山 克徳