季刊誌 駒木野 No.165
新年度を迎えて
例年になく遅い春の訪れで、梅の香りに包まれて駒木野病院は新年度を迎えます。平成24年度は、平成22年度に始まった新棟建築工事が終了します。新棟は平成24年8月1日に開棟し、届出病床数は500床から482床に減少、病棟数は逆に9病棟から10病棟に増加します。その後、南病棟の解体、引き続き跡地整備が予定されています。
開棟に伴い駒木野病院は、入院にも対応できる児童精神科医療の提供、高性能MRIの導入により診断精度の向上やとりわけ認知症関連疾患の早期診断、電子カルテ導入による診療情報一元化などが実現します。これらにより、駒木野病院は文字通り子供から高齢者までの幅広い年齢層に対し、各々のニーズに応じた多彩な精神科専門医療の提供が実現できることとなります。また、新たなサービスはあらたな地域貢献の手段であり、より一層の地域との協働と連携が求められます。
現時点で、平成24年診療報酬改定が当院に及ぼす影響は医業収益0.004%前後と予想されます。基本的には当院の方向性を後押しするものとなっていますが、具体的には個々の医療活動を細かく選定して加算する項目が多く、取りこぼしのないように診療情報管理体制の精度を高める必要があります。
平成24年度は、駒木野病院にとって新たな取り組みと変革の年度と位置付けられますが、一方で相当なリスクと「体力消費」を想定しなければならない年度となります。さらに記憶に新しい東日本大震災は、私たちに「想定外」という概念について、多くの教訓を与えてきました。本年度は形だけの準備ではない具体的で優先順位を見定めた備えに取り組む年度であり、備えきれない危機に対しては、時宜を得た判断と対応が必須であります。
最後になりますが、今年度も多くの人材を駒木野病院は迎えることになります。また、新病棟の開棟にあたり、大規模な院内異動も予定されています。不安もありますが、自戒も込めて、「心のこもった精神科医療」を提供するために、「着任したばかりで」とか「新しい環境に不慣れで」という言葉は封印しましょう。
院 長 菊本 弘次
特集:児童精神科外来
今、必要とされる医療を・・・子供の心をサポート
駒木野こどもセンター「すこやか」
こまぎのこどもセンター「すこやか」開設にあたって
児童精神科診療部長
笠原 麻里
駒木野病院に子どもの外来?と、驚かれた方も多いことかと思います。私自身、児童精神科開設というのは長い間の夢ではありましたが、叶えるのは難しいと思っていました。けれども、当院の根底に流れる志の高さと堅実さに加えて、好機の波にのせていただき、関わる様々な要因の時間軸が期を熟してクロスした時、現実が動き始めました。今は、そのすべてに感謝を致しております。
わが国の児童精神科臨床の現状は、少子化で拍車のかかる子どもの医療へのニーズは増す一方、支援の供給源(医師や専門スタッフ、医療機関)は著しく不足しています。現在、児童精神科専門医療機関として入院機能を有する病院は全国で20施設弱(殆どが国公立病院)であり、成人の精神科医療とは一線を画して運営されています。成人の精神医療に携わる専門家が子どもを診る機会の少ないことも、わが国の児童精神医学が前進しにくかった要因の一つであると思われます。小児期までに作られる人格や能力に基づくその後の精神的問題について、我々は議論の余地すら失っていたのです。流行り言葉のような「発達障害」を云々する以前に、「精神発達とは何か」を考える力が必要です。このような意味からも、精神科医療の中の児童精神科という位置づけにはこだわりを持っております。
そして、駒木野病院の持つ精神医療に対する真摯で専門的な潜在能力が、児童精神科医療に取り組むためには必須条件でした。それは、当院で伝統的に行ってきた重症患者さんへのリハビリ、アルコール、スーパー救急、認知症など、いずれも困難な治療に積極的に取り組み、患者さん本位の質の高い支援を継続する力と、そのために、全ての職員が一丸となって取り組む姿勢です。このような病院でなければ児童精神科医療は成功しませんし、始めることはできませんでした。これから多くの方々のお力をいただくことになる部門ですが、わが国の児童精神科医療の一つの理想を形作りたいと思っております。「すこやか」は、その第一歩です。よろしくお願い致します。
スタッフ紹介
医師:長沢 崇
おとな達が多くの心理的ストレスを抱える現代社会の中で、子ども達はどんなことを感じ、どんなことを不安に思っているのでしょう。私は子ども達の自然で、すこやかな成長を応援したいと思います。そして子ども達の成長を支える家族や学校、地域をサポートしたいと思っています。できることは限られているかも知れませんが、精一杯がんばりたいと思います。どうぞよろしくお願いいたします!
医師:細金 奈奈
細金奈奈(ほそがねなな)です。大学医学部卒業後、3年間一般精神科で研修後、現・国立国際医療センター国府台病院で児童精神科の研修をし、以来、児童精神科に関わる仕事に携わってきました。児童精神科の魅力は、子どもたちの成長を直に見守れることであり、その頼もしさにこちらが励まされたり癒されることも多く経験します。非常勤で微力ではありますが、これから地域の子ども達の「すこやか」な成長にお力添えできるように努めたいと思います。
OT:高野 なつき
こまぎのこどもセンター「すこやか」内に、まだからっぽの部屋が1つあります。そこは、パンダマークの貼ってあるお部屋で5月連休明けより「感覚統合療法」がスタートします。「感覚統合療法」とは、感覚が過敏、不器用、なお子さん等に対して専用の遊具を使用し治療するものです。一見遊んでいるようにしか見えませんが、遊びを通して技能等をお子さんに獲得してもらうのがねらいです。担当させて頂くOT高野も、只今同療法の猛勉強中ですが、どうぞよろしくお願いいたします。
心理士:森 さや佳
子どもの心のケアというと、「育てなおし」ということばを連想します。病棟では全体の流れを把握しながら、1人1人の子どもの特徴をきちんと理解し、育てることが必要となります。子どもたちの心は、繊細で、剥き出しの状態あるいは堅い殻に包まれた状態にあります。回復していくことを支えることは容易なことではありません。子どもの魂と向き合い真摯に寄り添い、豊に回復していく過程をお手伝いしたいと考えています。
平成23年度 医療実績
平成23年度の医療実績としましては、入院数963件及び退院数969件となり、前年度から微減しました。平均在院日数は174日と在院期間の短期化が継続しています。また外来においては、前年度に比べて患者数は微減しましたが、新規患者数は増加(H21年度の新規患者数の上昇は、閉院したみなみの森クリニックの患者を受け入れた為)しております。新規患者の疾病分類のグラフでは、F3:気分(感情)障害とF0:認知症及び器質性精神障害で全体の42%を占めており、当院の診療機能の特徴を表しています。
詳しくは病院統計を参照ください。
駒木野病院陸上部 疾走!!
第62回全関東八王子夢街道駅伝競走大会
南3病棟 宮脇 真一郎
2月5日、今年も例年通り八王子夢駅伝が開催されました。今大会は東日本大震災からの復興の思いを込め、岩手県の山田中陸上部が招待されていました。いろいろな形で、復興のために協力しながら、日本は前に進んでいこうとしているのだということを、肌で感じることができました。
さて、駒木野病院陸上部はというと、男女各1チームが参加することができました。2年ぶりに、駒木野病院のスタッフだけで、チームを作ることができ、無事、タスキを繋ぐことができました。沿道で、「駒木野病院がんばれ!」と応援してくださった地域のみなさん、そして、病院スタッフの皆さんの力を合わせた結果であると思っています。
今年も、駒木野病院陸上部は全力疾走で、今年も駆け抜けていき、明るい話題を届けられるようにしていきたいと思っています。
編集後記
寒かった冬でした。早く春がこないかなと心待ちしたのは私だけでしょうか。建設中の新館と本館に挟まれた桜の木がとても気になっております。この桜の木は老木ではありますが、毎年見事なたくさんの花を咲かせ、患者様はじめみんなを和ませてくれました。新棟建設のために伐採され、木は半分以下となってしまいましたが、今年も頑張って花を咲かせみんなにやすらぎと元気をたくさんください。
[I・K]